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和歌山地方裁判所 昭和45年(行ウ)1号 判決

原告 浜口秀夫

被告 和歌山市固定資産評価審査委員会

主文

一  別紙目録一(一)記載の物件に対する昭和四五年度固定資産課税台帳登録価格につき、被告が昭和四五年四月二五日付でなした原告の審査申出を棄却する旨の決定は、これを取消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

主文同旨

二、被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求の原因

1  原告は別紙目録一(二)記載の宅地を所有しているところ、和歌山市特別都市計画土地整理事業の施行により、同目録一(一)記載の宅地(以下、本件物件という。)につき仮換地の指定を受け、これによつて従前の宅地に対する所有権と同一内容の使用収益権を取得した。

2  和歌山市長は、昭和四五年二月末日地方税法四〇三条、四一〇条等により昭和四五年度の固定資産の評価に基づき、原告の納付すべき同年度の固定資産税の課税標準たる価格として、本件物件につき別紙目録一(三)記載の新価格を決定し、同法四一一条により直ちに和歌山市備付の固定資産課税台帳に右価格を登録した。

3  原告は、本件物件の登録価格について不服があるため、昭和四五年三月二七日被告に対し、文書をもつて審査の申出をしたところ、被告は、同年四月一五日および同月二二日に口頭審理をしたのち、同月二五日に原告の本件審査申出を棄却する旨の決定(以下、本件審査決定という。)をした。

4  しかしながら、本件審査決定は、次の理由により違法であるから、取消しを免れない。すなわち、

(一) 固定資産課税台帳の登録価格について、納税者から不服審査の申立を受けた固定資産評価審査委員会は、審査申出人の申請があつたときは、特別の事情がある場合を除き、口頭審理の手続によらなければならず(地方税法四三三条二項)、この審理方式によるときは、審査申出人、市長等関係者の出席および証言を求め(同条三項)、関係者に提出資料の閲覧をさせ(同条五項)、行政不服審査法所定の審理手続に則り、参考人の陳述および鑑定要求(行政不服審査法二七条)、検証(同法二九条)、審尋(同法三〇条)等の方法で審査資料の蒐集に努め(地方税法四三三条七項)、これらを公開の審理手続で行なわなければならない(同条六項)ものとされている。

ところが、被告は、原告が登録価格が過大であること、それ故にその資産評価の体系とそれに基づく具体的な決定理由およびその計算根基を明示するよう求めたにもかかわらず、前記二回に亘る口頭審理期日において、何ら右決定理由、計算根基を明らかにせず、前掲各法条に定められた手続を全く履践することなく、原告に弁論、立証の機会を与えないまま、僅か一〇日間の短時日で一方的に審理を打切つたものであつて、審理手続上に瑕疵が存することは明白である。

(二) 次に、地方税法の規定に基づいて定められた和歌山市固定資産評価審査委員会規程(昭和三七年四月二日固評委告示第一号、その後一部改正)によれば、被告は審理にあたり和歌山市長に対し、答弁書の提出を求め(同規程一三条、別紙目録二参照)、関係者相互の対質、証言を求め、口頭審理の終了に先だつて関係者に意見を述べ、必要な資料を提出する機会を与える(同規程一四条、同目録参照)ものとされているにもかかわらず、右手続は全く履践されていないから、手続上に瑕疵が存する。

(三) さらに、本件登録価格の認定にあたり、必要な調査等が行なわれていない。すなわち、和歌山市長は、固定資産評価員または固定資産評価補助員に固定資産の状況を毎年少なくとも一回実地に調査させなければならず(地方税法四〇八条)、固定資産の評価に関する事務に従事する和歌山市の職員は、原告とともにする実地調査、原告に対する質問などのあらゆる方法によつて、公正な評価をするように努めなければならない(同法四〇三条二項)ものとされているのに、何ら右所定の義務が履践されていないから、その瑕疵は明らかである。

(四) なお、また、被告は、審査請求後本件物件の実地調査をしたが、これは行政不服審査法二九条に定めるところの「検証」にほかならないから、被告は口頭審理において、検証をする旨の決定をなし、あらかじめ日時、場所を原告に通知して立会いの機会を与えなければならないのに、右手続によらずに実地調査を密行したものであつて、手続上に瑕疵が存する。

(五) ところで、本件のような審査決定においては、その理由中で少なくとも争点を明らかにし、これに対する判断、意見を記載することによつて、審査申出人に決定の理由を知らしめることが必要である。しかるに、本件においては、決定は「申請理由は認められません。」というのみで、全く理由を記載していないから、これのみで取消事由に該当するものである。

二、請求の原因に対する認否および主張

1  請求の原因第一ないし第三項の事実はいずれも認める。

(一) 固定資産税の性格ならびに課税標準について述べるに、国民は、法律の定めるところにより納税義務を負うものであるところ、地方税法は、土地、家屋等の固定資産を所有するものは、その固定資産が所在している市町村に対して固定資産税を納付しなければならない旨規定している(憲法三〇条、地方税法三四二条一項、同法三四三条一項)。固定資産税は、一種の財産課税的性格をもつた物税ともいうべきものである。たとえば、土地を所有している場合、誰もその土地を毎年切り売りして固定資産税を納めさせようと考えているわけではない。しかしながら、その土地を所有することにより、土地を他に貸し付け地代を得ることもできよう。家屋についても同様にこれを貸し付けて家賃を得ることができよう。このように、右税の課税客体たる固定資産、すなわち土地、家屋は、いずれも利得を生ずる収益性をもつものである。この収益性があることと、ある固定資産が具体的に収益をあげているかどうかということとは自ら別個の問題である。固定資産税とは、具体的に実現された収益に対してではなく、固定資産が本来収益を生ずるべき性格をもつたものであるという、その資産の収益性に着目して課せられる財産税であるといえる。右のように、固定資産税は、いわゆる収益的財産税であつて、その課税客体たる固定資産は、資本を資産の形で所有しているもの、すなわち交換価値を目的としてではなく、これを使用、収益する価値に着目して所有するものであつて、右使用、収益するところにその財産価値が見出されるものである。

したがつて、固定資産税の課税標準は、原則として固定資産の価格であるが、この価格とは「適正な時価」をいうものとされている(地方税法三四一条五号)。この適正な時価とは、これを処分するときの価格ではなく、その資産を使用収益するためにその固定資産を取得するものとして、その取得する場合の価格である、と解すべきである。もつとも、この価格は、抽象的観念であり、これをさらに具体的に把握するため「評価」が行なわれるのである。こうして、適正な時価は、具体的には後記のとおり自治大臣の定めた評価基準によつて評価されるのである。このことは、地方税法三八八条一項、同法四〇三条一項によつてみても明らかである。

(二) 和歌山市長のなした本件登録価格の決定理由は、次のとおりである。すなわち、同市長は、地方税法四〇三条一項の規定により、同法三八八条一項に規定する自治大臣が定めた「固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続」(以下、固定資産評価基準という。)(昭和三八年一二月二五日自治省告示第一五八号、昭和四〇年一二月二八日同告示第一七四号、昭和四一年一〇月二一日同告示第一四二号、昭和四四年同告示第二〇一号)にしたがつて、本件固定資産を別紙目録三記載のとおり評価した。

(三) 前記登録価格の決定に対する原告ら七〇名余による審査申出の理由は、次のとおりである。

(1) 今回行なわれた評価替えは、農民や小土地所有者に対し、払いきれない税金をかけ、土地を手放さざるを得ないところへ押し込み、都市計画法や地価公示法等で大資本へ安く土地を提供する目的をもつている。また、この重税によつて税金が増え、家賃地代等物価値上げを招く原因になるので反対である。

(2) 土地の評価は過大である。

(3) 土地売買の意思はないにかかわらず、売買価格を基礎に評価したことにつき納得できない。

2  本件審査手続の経過は、次のとおりである。

(一) 昭和四五年度固定資産課税台帳の登録事項たる評価額につき、和歌山民主商工会を通して審査の申出をしたと思われるものは、前記のとおり七〇名余に達し、その審査申出の理由とするところはすべて同一であつて、詳細は口頭審理において陳述する旨記載されていた。

(二) 被告は、審査にあたり、第一回審査期日を、

(1) 昭和四五年四月一四日午後一時、申出人藤田五男ほか八名

(2) 同日午後二時三〇分、申出人塩見勇喜ほか一〇名

(3) 同月一五日午前一〇時、申出人堀川太一ほか九名

(4) 同日午後一時、申出人谷口利雄ほか七名

(5) 同日午後二時三〇分、申出人高木平ほか九名

(6) 同月一六日午前一〇時、申出人浜口秀夫、同吉備弥一郎ほか五名

(7) 同日午後一時、申出人殿村俊和、同大艸主馬、同田島勝蔵ほか五名

(8) 同日午後二時三〇分、申出人島鈴ほか二名

と決定し、その旨各申出人に通知した。

(三) ところが、同年四月一五日午後一時ごろ前記原告等およびその他約一〇〇〇名余の者が審査会場に一挙に押しかけて、原告等は被告に対し、

「各個人別に審査申出書を提出したが、これは和歌山民主商工会として申立てをしたもので、審査申出理由は全く同趣旨であるから、一括して審理せよ。」

との要請があつたので、被告は併合審理することに決定し、かつ、審査申出理由が同趣旨であることから、各申出人が口々に発言し喧騒に陥ることを避けるため、各申出人中から代表者として前記吉備弥一郎、同谷口利雄および松本孝三の三名を選び、その代表者より申出理由の陳述その他の発言をさせることにした。右代表者等は、(1)和歌山市のなした実地調査の法的根拠の明示、無断測量調査の違法、(2)被告の指定した審査期日に対する不服、(3)被告の委員は和歌山市一五ブロツク全部について全ブロツクに出向いて調査すべきこと、および(4)和歌山市に対し答弁書を提出させること等を主張した。その間も、右代表者以外の者から弥次が飛ぶなど喧騒化し、到底円満な審理をなし得なくなつたので、右代表者からの申出により、審理を同月二二日午後一時に続行することとなつた。

(四) 同年四月二二日午後一時に開いた審査期日において、申出人五〇名位が出頭し、その代表者に前記吉備弥一郎、同殿村俊和、松本孝三の三名が選ばれた。当日の審理経過の概要は次のとおりであつた。

(1) まず、被告代表者委員長より申出人等に対して、審査申出の趣旨ならびに理由を陳述するよう再三促したが、申出人等は申出書記載のとおりである、というのみであつた。

(2) 次いで、右申出人等から処分庁たる和歌山市長に対して、評価基準を明らかにするよう求めたのに対し、同市長は、「昭和三九年(基準年度)の評価替により土地評価額が急騰し、これによる税負担の急増を避けるため、昭和四四年度まで負担調整による措置を講じてきた。昭和四五年度が評価替年度であつて、昭和四五年度税制調査会の答申により国の評価基準(地方税法三八八条)に基づき価格を評定したものである。和歌山市における基準地の評価は、三・三平方メートル当り金六五万円であつて、市内三一〇ケ所の標準地を定めて、その標準地の価格を決定したうえ、右評価基準に基づき申出人等の各土地についての評価を定めた。」旨陳述した。

(3) 右申出人等は、三一〇ケ所の標準地につき、その場所、地番、評価額を明らかにせよ、との要求をなし、同市長は、地方税法二二条により公表できない旨陳述した。

右標準地三一〇ケ所の評価額につき、公表せよ、公表できないとの問答が繰り返され、右代表者以外の者からも弥次が飛び、審査会場は喧騒のため収拾できないまでになつた。そこで、被告は和歌山市固定資産評価審査委員会規程一四条五項の規定(別紙目録二参照)によつて、これ以上口頭審理を実施し得ないと判断して、これを打切り、書面審理をなすべき旨宣した。

(五) かくて、書面審理にあたり、和歌山市長から提出された(1)自治省における和歌山市の基準宅地の適正時価を金六五万円とすべき旨の書面、(2)不動産精通者五名の基準地ならびに標準地の鑑定書、(3)路線価図、(4)建物についての戸別調査表、部分別評点調査表などの資料を検討した結果、被告は、同市長のなした評価は自治省告示の固定資産評価基準に適合する公正妥当なものと認めた。他面、原告の審査申出理由第(1)点については、被告の判断すべきことではなく、第(2)点については、前記のとおり評価が過大であると認められず、第(3)点については、売買価格そのものをもつて評価格としたものではないので、いずれもその理由が認められなかつた。

よつて、原告の審査申出を棄却する旨の決定をなしたものである。

3  本件審査決定は、以上の経過を踏まえて正当になされたのであつて、何らの瑕疵も存しない。

(一) 原告は、本件審査手続には地方税法四三三条所定の口頭審理方式を履践しなかつた違法がある旨縷縷主張するが、新評価決定の根拠(計算根基)および売却意思のない所有者に対し、売買価格で課税することの違法、不当の主張については、口頭審理において、和歌山市長から前記のとおりの陳述があり、これに対して原告らより何等の弁駁もなかつた。また、新評価は税負担の急増を招き、大資本優遇、小土地所有者圧迫の悪政策であるとの主張については、そもそも被告の判断すべきことではない。したがつて、地方税法所定の口頭審理方式を履践しなかつたという原告の主張はあたらない。

(二) 原告は、次いで、本件審査手続には和歌山市固定資産評価審査委員会規程一三条、一四条に違背した瑕疵がある旨主張するが、被告は和歌山市長に対して答弁書の提出を求めているし、また前記のような審理経過にあつては被告のとつた手続は最善の方法であつて、何らの違法はない。

(三) さらに、原告は、本件登録価格の認定にあたり、必要な調査等が行なわれなかつた旨主張するので、この点について反論する。

地方税法四〇八条は、毎年一月一日現在における時価を定めるには、その固定資産の状況を毎年一回実地に調査することが適当であるとの見地から設けられたものであつて、それ以上のことがらを考慮して定められたものとは考えられない。また、固定資産の価格は毎年二月末日までにこれを決定しなければならない、とする同法四一〇条と関連して考えるならば、この短時日の期間内に、和歌山市内に所在する固定資産のすべてについて、かつ、細部にわたつて綿密な調査を行なうことは極めて困難であるから、結局、四〇八条の規定は訓示規定と解すべきである。それ故、第四〇八条に規定する義務も、結局は固定資産の評価額が「適正な時価」(同法三四一条五号)であることを確保するための一つの方法であつて、実地調査をしなかつた場合、手続上は適当なものといい得ないが、その評価された価格がそれ自体適正を欠くものでない限り、実地調査に基づかない評価であるとの理由のみで、その決定の効力が否定されるものではない。

次に、固定資産の評価に関する事務に従事する和歌山市職員は、地方税法四〇三条二項の規定に基づき、公正な評価をしたものである。仮に、原告主張のように右規定に例示する納税者とともにする実地調査、納税者に対する質問という方法をとらなかつたとしても(納税者の申告書の調査については、納税者たる原告から申告書の提出がなかつた。)、これはいずれも同法三五三条に規定する質問検査権に基づくもので、必要がある場合にこれを行なえば足りるのであつて、右の実地調査、質問を行なわなかつたからといつて、直ちに評価額が不適正なものとなるわけはない。それ故、同市職員は、その他「あらゆる方法によつて公正な評価をするように努めなければならない」が、この規定もまた公正な評価を確保するための一つの規定であり、公正な評価を決定するに十分な方法をとれば足りるものである。したがつて、同市職員は四〇三条二項の規定に違反していない。

(四) なお、本件のような審査決定には、必ずしも理由を記載する必要はない。

第三、証拠関係〈省略〉

理由

一、請求の原因第一ないし第三項の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二、原告は、本件審査決定は審査手続および審査決定自体にそれぞれ違法があると主張するので、まず前者の点から判断する。

1  はじめに、固定資産評価に対する審査手続について検討するに、地方税法四三三条は、審査を申し出た者の申請があつたときは、特別の事情がある場合を除き、口頭審理の手続によらなければならない(同条二項)、口頭審理を行なうときは、審査を申し出た者、市町村長または固定資産評価員その他の関係者の出席および証言を求めることができる(同条三項)、口頭審理の手続による審査は、公開して行なわなければならない(同条六項)と定めている。さらに、同法の規定(四三一条)に基づいて定められた和歌山市固定資産評価審査委員会規程(別紙目録二参照)は、その一四条において、委員会は、口頭審理を行なう場合は、その都度申出人、和歌山市長に日時、場所を通知し(同条一項)、関係者相互の対質を求め(同条二項)、関係者に対し申出により、口頭による証言にかえて口述書の提出を許し(同条三項)、口頭審理を終了するに先だつて関係者に対し意見を述べ、必要な資料を提出する機会を与える(同条四項)ものと規定している。また、地方税法四三三条七項は、行政不服審査法の審査手続に関する規定中、審査申出人の証拠書類の提出(同法二六条)、参考人の陳述、鑑定要求(同法二七条)、審査申出人、参考人の審尋(同法三〇条)等を準用しているのに反し、処分庁からの弁明書の提出およびこれに対する審査申出人の反論書の提出等の規定(同法二二条、二三条)を準用していない。

これらの各規定を比照検討すると、固定資産評価に対する審査手続は、審査申出人の申請があれば、口頭審理によることが根本原則であり、しかも、口頭審理においては、審査申出人および市町村長がいわば相対立する両当事者として、それぞれの立場から理由あらしめるべき主張を展開し、そのために自ら証拠を提出し、立証する機会が保障されているという意味において、双方審尋、当事者対等の審理構造を基本的な前提としているものということができる。もつとも、固定資産の評価は、多分に技術的性質を帯有しており、しかも、審査は、迅速な賦課、徴収という公益目的を達するため審査申出の日から三〇日の法定期間内に完了させなければならない(地方税法四三三条一項)ものとされていることから、これらを根拠として、口頭審理を通じてのみ一切の主張、立証等が尽くされなければならないものではなく、本来は、書面審理その他の調査と口頭審理とを並行して職権的に行なうべきものであるとする見解をとる余地がないわけではない。しかしながら、固定資産の評価は、極めて複雑多岐であるから、審査申出人をして不服理由を十分に陳述させ、これに対する評価格算出の計算根基を、具体的な資料をもつて市町村長から明示させることによつてはじめて、審査手続が適正かつ公正に行なわれ得るのである。このためには、対審的構造に則つた口頭審理方式によるのが正当であつて、かような適正な運用を阻害し、制度の趣旨を没却するおそれのある右見解には、にわかに左袒し難い。

2  以上の観点に立つて、本件審査決定に口頭審理方式違背の手続上の瑕疵があるか否かについて審究する。

前記争いのない事実に、成立に争いのない甲第一号証および被告代表者委員長石川出の尋問の結果をあわせると、原告ら七〇余名から被告に対し、同一不服理由に基づいてなされた審査申出について、原告らの申請により昭和四五年四月一五日および同月二二日の両期日に亘つて開催された口頭審理(併合審理)を通じ、要するに、原告らからは、終始本件登録価格の決定に関する計算根基を具体的に明示するよう強く要請したのに対し、和歌山市の評価員は、後記の事由からこれを拒否し続け、最後まで計算根基を明示しなかつた、という状況に尽きることが認められるのである。すなわち、両期日における審理状況はほぼ同一であるが、特に第二回の審査期日において、原告らは、本件登録価格の評価決定に関する計算根基の明示、なかんずく基準宅地および標準宅地の場所、地番、評価格等の詳細を明らかにするよう再三に亘つて強く求めたのに対し、和歌山市の評価員は、一般的に評価替によつて土地の評価格が従前に比して急騰したこと、右評価は、自治省告示によつて定められた評価基準に則つて算出したこと、基準宅地は和歌山市ブラクリ丁にあり、三・三平方メートル当り金六五万円であること等を説明したが、しかし、右宅地の地番や市内三一〇ケ所に散在する標準宅地の場所、地番、評価格については、地方税法二二条の規定(守秘義務違反に対する罰則)の趣旨から公表できないとして拒否した。このため、これに反撥した原告らが、これでは何ら説明になつていないとして応酬、反駁し、重ねて釈明を求めたが、あくまでもこれを固辞する評価員の態度に不満を抱いた一部参会者から非難が浴せられ、審査会場は騒然たる雰囲気となつた。これがため、もはやこれ以上口頭審理を続行できないと判断した被告委員長は、それが可能であつたのに原告らに意見陳述、資料提出の機会を与えることなく、直ちに審理の打切りを宣した。その後、被告は、和歌山市長から提出させた基準宅地の価格、路線価図等の資料をもとに書面審理をしたうえ、本件審査決定をなした。以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定事実によれば、本件口頭審理においては、本件登録価格についての評価に関する計算根基は何ら明示されておらず、しかも口頭審理の終了(もつとも、口頭審理の打切りが、規程一四条五項にいう「実施し得ないと認める場合」に該当するかどうかは措く。)に先だつて、原告らに対し、意見陳述、資料提出の機会を与えることなく、一方的に審理を打切つたものであることが認められるのであつて、本件口頭審理手続には、手続違背の瑕疵があること明らかである。たとえ、爾後の書面審理において、十分に資料を蒐集し、慎重に審議を尽くしたとしても、前記口頭審理の手続構造に照らせば、これがため右手続違背の瑕疵が治癒されるいわれはない。

三、次に本件審査決定自体の理由について検討するに、前掲甲第一号証によると、本件審査決定の理由としては、「申請理由は認められませんので棄却したします。」とのみ記載されているに過ぎないことが認められる。

ところで、審査申出制度の趣旨に鑑みると、審査決定に理由を付する所以のものは、審査申出人をして、決定がいかなる根拠に基づいてなされたかを知らしめ、あわせてこれに対する争訟の機会を与えることにあるから、その理由記載の程度は、固定資産評価の方法、計算根基(宅地評価についていえば、評点数、標準宅地、路線価等)についての具体的な明示を要するものというべきである。そうであるとすれば、本件審査決定においては、前記認定のとおり全く理由を付していないに等しいのであるから、この点において瑕疵がある。

四、以上のとおりであつて、本件審査決定は前記いずれの点においても違法であるから、爾余の点について判断を加えるまでもなく、取消しを免れない。よつて、原告の本訴請求は理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 新月寛 大藤敏 宮森輝雄)

別紙目録一、三〈省略〉

目録二

和歌山市固定資産評価審査委員会規程

一三条

委員会は、書面審理を行なう場合に必要があると認めるときは、市長に対し、質問その他必要な事項を記載した文書を送付し、期限を定めて答弁書の提出を求めるものとする。

2 委員会は、必要があると認めるときは、申出人に対し、市長の答弁書の概要を記載した文書を送付し、期限を定めて弁ぱく書の提出を求めることがある。

3 委員会は、必要があると認めるときは、市長に対し申出人の提出した弁ぱく書の写しおよび必要な事項を記載した文書を送付し、期限を定めて再答弁書の提出を求めることがある。

(口頭審理)

一四条

委員会は、口頭審理を行なう場合は、そのつど、文書またはその他の方法で口頭審理の日時、場所を申出人および市長(以下本条において「関係者」という。)に通知する。

2 委員会は、必要があると認めるときは、関係者相互の対質を求めることがある。

3 委員会は、関係者に対し、その申出により、口頭による証言にかえて口述書の提出を許すことがある。

4 委員会は、関係者が出席している場合には、口頭審理を終了するに先だつて関係者に対し意見を述べ、かつ、必要な資料を提出する機会を与える。

5 委員会は、口頭審理の申請をした申出人が、期日に出席しなかつたため、その他口頭審理を実施し得ないと認める場合は、書面審理によつて審査を行なうことがある。

6 書記は、口頭審理について調書を作成しなければならない。

7 前項の調書には、次に掲げる事項を記載し、審理に参与した委員および調書を作成した書記が、これに記名押印するものとする。

(1) 事案の表示

(2) 審理の場所および年月日

(3) 出席した関係者の住所、氏名および職業

(4) 審理の要領

(5) その他必要な事項

(実地調査)

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